@keihiguさんが研究留学に関するAdvent Calendarをやるというのでオッサンの私も1つ書いてみようかなと思いたちまして、参加することになりました。take-home messageとしてはとにかく自分から動くです。海外に{行く・行くつもりがある}積極的な皆さんにとっては「そんなの当然でしょ」と思われるかもしれませんが、これを持たないと、ただ漫然と時間が過ぎていくことになると思います。
私は誰かといいますと、立命館大学の情報理工学部で働いています。松村耕平です。このポストはイングランドの北のほう(すなわちもう少しでスコットランド)にある都市ニューカッスル(Newcastle)にサバティカルで滞在したときの記録です。まずは定型文から埋めたあと、他の方の例にならって私なりのまとめをしたいと思います。
定型文
いつ行ったか
2015年10月から2016年3月(6ヶ月間)
どこに行ったか (組織など)
Open Lab, Newcastle University, Newcastle upon Tyne, UK ここに行くことになった経緯についてはこちらのポストを参照ください。
何をやったか
現地の研究者(David Kirk)と共同研究。この成果についてはhttps://doi.org/10.1145/3161176を参照ください。
どうやって行ったか (どのようなプログラムで行ったのかなど)
立命館大学助教学外研究制度。この経緯についてはこちらのポストを参照ください。
Newcastle UniversityのOpen Labとはどんなところか
Newcastle UniversityのOpen LabはHCIやUbiquitous Computingに関する研究を中心にした研究者の集まる研究所です。以前はCulture Labと呼ばれていたこともあります。大学からは一つの独立研究機関として存在しているようで、ラボが一つの研究棟を持っています。私が滞在したころは総勢120人を超える大所帯で、Patrick Olivier, Pater Wrightを中心に、7人のFacultyがこれを率いていました。ここでは、コンピュータ科学はもちろんのこと、数学、心理学、社会科学、哲学などの研究者がそれぞれに補い合ってプロジェクトを進めています。HCIに関する研究機関ではイギリスにおいてはUniversity College LondonのUCLIC (UCL Interaction Centre)と並んで世界でも有数のラボと言えます。世界最大の国際会議であるCHIの採録数ではおよそトップ5に入っています。
CHI2015 Institutions | ||
---|---|---|
Institution | City | Num of Publication |
Carnegie Mellon University | Pittsburgh | 38 |
University of Washington | Seattle | 29 |
Microsoft Research | Redmond | 17 |
University College London | London | 17 |
Newcastle University | Newcastle upon Tyne | 15 |
CHI2016 Institutions | ||
---|---|---|
Institution | City | Num of Publication |
University of Washington | Seattle | 39 |
Carnegie Mellon University | Pittsburgh | 35 |
Microsoft Research | Redmond | 27 |
Newcastle University | Newcastle upon Tyne | 19 |
University of Michigan | Ann Arbor | 17 |
CHI2017 Institutions | ||
---|---|---|
Institution | City | Num of Publication |
University of Washington | Seattle | 44 |
Carnegie Mellon University | Pittsburgh | 34 |
Microsoft Research | Redmond | 27 |
Newcastle University | Newcastle upon Tyne | 27 |
Northumbria University | Newcastle upon Tyne | 24 |
日本では、CHIのように1st Tierの会議に落ちた論文を2nd Tierの会議に再投稿するような例もあると思いますが、Open Labではそういうことはあまり考えておらず、主戦場をCHIやUbicompといった1st Tierの会議として、落ちてもReviseして次の年の同じ会議に出す例が多数です。僕の席の近くに座っていたChrisも、そんな風に溜まった論文が一気に3本CHIに採択されていました。
ラボの雰囲気
ラボの雰囲気はすごくフラットです。教授(Professor)も准教授(Reader)も学生や他の研究員と同じ部屋に同じだけのスペースで座っています。
ラボのメンバーは、HCIの研究者らしく、自分のラボを改善する方法も探しているようです。例えば、ラボのメンバーはみんなコーヒーが大好きです。ティースペースのコーヒーメーカーでは自身の分だけではなく、他の人のために多めに淹れています。でも、他の人はコーヒーメーカーに残っているコーヒーがいつ淹れられたものなのかわからず、冷めたコーヒーを飲んだり、あるいは、残ったコーヒーを捨てて新しくいれなおすということがありました。そこで、メンバーのひとりがコーヒーがいつ淹れられたのかわかるような時計のようなものをレーザーカッターでプロトタイプしました。
この時計はおよそ機能していましたが、ラボのメンバーはこのタイマーの入力を簡単にするとともに、TwitterやSlackでコーヒーが入ったことを通知できるプロトタイプに改善しました。最初のプロトタイプから1週間後のことです。こんな感じのデザインサイクルが日常的に行われていました。
ここでどう生きるか
フラットなラボでしたが、人付き合いもフラットです。毎日、好き好きに来て、好き好きに帰っていきます。一緒に飲みに行っても、いつの間にか挨拶もなしに居なくなっています。このことを話題にしたら、ドイツ人の同僚は「挨拶なしに居なくなっちゃうのはちょっと気持ち悪い」って言っていたのでイギリスならではなのかもしれません。こういう環境なので、なにもしないでいると、ただ漫然と時間が過ぎていくことになります。でも自分を知ってもらうチャンスはいくらでもありました。これを活用することにしました。
まずは自己紹介:Lab Talk
Open Labでは学生にはメンターがいますが、各々が個人的に研究プロジェクトを立ち上げて、人を引き込んでいました。ラボにいるデザイナーや社会学者などをうまいこと巻き込んでプロジェクトを編成することになります。全体のゼミはありません。しかし、Lab Talkと呼ばれるプレゼンテーションの機会が金曜日の昼休み(12:00〜13:00)にあります。この時間で研究紹介を行うことにしました。幸い、Lab Talkの取りまとめをしているMattは通路を挟んで僕の隣に座っていたので、話は簡単でした。「話したい」と伝えると「じゃあ次の金曜日よろしく!」みたいな感じになりました。このLab Talkがきっかけで自身の研究のことを知ってもらうことになりましたし、プロジェクトを手伝いたいと言ってくれるメンバーにも出会いました。
色んな所に顔を出す:Workshop、ティースペース
とにかく、色んな所に顔をだすことにしました。例えば、Open Labではレーザーカッターや3Dプリンタなどの機械を使うためには、所定の講習を受ける必要があります。このような講習やワークショップに参加して知り合いを増やしました。特に、有志が行うSuper Wednesdayという最新のウェブ技術などをサーベイしたり議論したりするイベントは週1で開催されていましたので、こういうイベントは逃さないことを心がけました。
あるいは、とにかくイギリス人は紅茶を飲みまくるのですが(3kg入りのティーバッグがラボにいくつもありました)、僕もその回数を増やしました。ティースペースで紅茶をいれるときに、近くにいるメンバーに少し挨拶と会話をすることを繰り返すと、友達が増えます。
社交辞令に乗っかるというのも1つのコミュニケーションの方法でしょう。例えば趣味の話になったときに、相手「ボルダリングが趣味なんだよね。」→松村「へー楽しそうだね。」という流れから、相手「今度一緒に行く?」みたいな一応誘っておく社交辞令的会話に発展する事があります。この機会を逃さずに具体的な予定にするというのも1つのコミュニケーションの方法です。
そんなこんなで仲良くなった
上のようなことをしていると、知り合いが増え、ホームパーティや飲み会によく誘われるようになりました。「クリスマスは1人だなー」とか言ってると「じゃあ遊び行く?」と、クリスマスも一緒に過ごしてくれる友人ができました。彼らはお別れパーティーもやってくれたし、誕生日パーティーもやってくれました。いつかお返ししなきゃいけませんね。
結果として、上記のことをしなかったらどうなっていたのかはwhat if… なのでよくわかりません。でも、彼らの普段のフラットな関係性を考えると、ぼっち生活になっていたことは想像に難くありません。とにかく日本での生活よりだいぶ積極的になることを意識することが必要だと感じます。
帰国してから
このラボに行って良かったと感じたのは、むしろ帰国してからかもしれません。まず、CHIなどの国際会議にいって挨拶をする知り合いが超絶的に増えました。Open Labからは毎年CHIに数十人が参加するので直接に彼らに会うことはもちろん、さらに知り合いを紹介してもらうこともあるので、ネットワークがかなり広がりました。例えば、CHIではOpen Labの関係者が集まるGeordieCHIというイベント(CHI Japan Nightみたいなものですが規模が超大きい)にも招待されたのですが、ここでは様々な研究者とつなげてもらいました。日本のJapan Nightも同じように人をつないでいくような枠組みになると良いなと思います。
日本で国際会議があるとき、訪ねてくれる研究者も増えました。最近ではTEIのときに訪ねてくれました。これからも日本ではIUIやISSなどの会議があるので、また彼らと会うのが楽しみです。
おわりに
とりとめがない文章になってしまいましたが、イギリスの北のほうで在外研究をした際に「自分から動く」ということをやってみた経験を紹介しました。なんらかの参考になれば幸いです。また、Open Lab (Newcastle University)やNORTHLab (Northumbria University)、UCLIC (University College London)への訪問や在外研究に興味がある方は中の人を紹介することくらいはできますのでお気軽に連絡ください。